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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1163号 判決 1983年5月31日

長野市大字鶴賀権堂町二二三六番地

控訴人

株式会社千木良商事

右代表者代表取締役

吉原勝正

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

秦野章

右指定代理人

細井淳久

重野良二

沢伸吉

阿島丈夫

右当事者間の昭和五七年(ネ)第一一六三号法人税還付請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  控訴人は、

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金八八万三七〇〇円及びこれに対する昭和四一年五月一日または昭和四二年七月一日から完済に至るまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審を通じ被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求め、

二  被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

第二当事者双方の主張及び証拠関係

当事者双方の主張は、次の一及び二に付加、補正するほか原判決事実摘示第二のとおりであり、証拠関係は原判決事実摘示第三のとおりであるから、これをここに引用する。

一  補正

1  原判決二枚目表六行目の「原告は、」の次に「法人税の青色申告の承認を受けていた株式会社であり、」を、同一二行目の「原告に対し、」の次に「昭和三五年五月一日ないし昭和三六年四月三〇日の事業年度(以下「昭和三六年四月期」という。)以降につき、」を各加え、同三枚目裏三行目の「左記1、2のとおり、合計」を「左記1、2の合計額の内」と、同一〇行目の「欠損金額」を「前記欠損金額」と各改め、同一一行目の「繰戻金額」の次に「一、三二五、二三四円」を加える。

2  原判決四枚目表一〇行目の「本件青色取消処分」から同一二行目の「還付せず、」までを「本件青色取消処分が取消された結果、前記欠損金の繰戻しまたは繰越しにより控訴人に八八三、七〇〇円を還付すべきであるのに、これを還付せず、もって、」と改め、同五枚目表六行目と七行目の間に「なお、本件青色取消処分からその取消しに至るまでの経緯は別表一のとおりであり、本件における課税処分に関する経緯は別表二のとおりである。」を加え、同六枚目裏一一行目の「一九日」を「二九日」と、同八枚目裏二行目(冒頭の数字「1」を除く。)及び三行目全部を「控訴人は、昭和三六年四月期から、昭和三八年五月一日ないし昭和三九年四月三〇日の事業年度(以下「昭和三九年四月期」という。)までの四事業年度の各期において、売上金額の一部を帳簿書類に記載しなかった(売上げ計上漏れ)が、」と各改める。

二  1 当審における控訴人の補充的主張

(一)  欠損金の繰戻し及び繰越しに基づく還付請求について

長野税務署長は、控訴人の昭和三六年四月期から昭和三九年四月期までの四事業年度については、本件青色取消処分の取消しとともに、本件青色取消処分に伴ってした更正処分を取消し、右更正にかかる税額を返還しながら、昭和四一年四月期に発生した欠損金の繰戻し及び繰越しに基づく還付請求に応じないのは、彼此矛盾するものである。

(二)  本件青色取消処分の違法性(不法行為に基づく損害賠償請求に関して)について

長野税務署長は、控訴人に対し強く脱税の容疑を抱き、当初から控訴人を脱税者として糾弾する意図、目的のもとに、執拗に立入調査、周辺調査を行い、何ら具体的な脱税の事実を把握しえなかったにもかかわらず、単に右意図、目的を貫徹するために、本件青色取消処分を行ったものであるから、少なくとも本件青色取消処分を取消した時点では、本件青色取消処分は違法となったものであり、不法行為が成立するというべきである。

(三)  消滅時効の中断(不法行為に基づく損害賠償請求に関して)について

本件における不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、控訴人が当初昭和五二年八月五日に本件訴えを提起したことにより中断したというべきである。

2 右主張に対する被控訴人の答弁

右当審における控訴人の補充的主張はいずれも争う。

理由

当裁判所も、本訴各請求はいずれも理由がないものと判断するものであるが、その理由は、次の一ないし八に付加、補正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決一〇枚目表一一行目と一二行目の間に次のとおり加える。

「そして、成立に争いのない甲第一、第二号証及び原審における証人吉村文和の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件青色取消処分は、法人税法一二七条一項三号に掲げる事由、すなわち、控訴人が帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載したことを理由としてなされたものであるところ、別表一記載のとおり不服申立手続を経由して本件青色取消処分の取消訴訟が係属中に、長野税務署長が職権で本件青色取消処分を取消したのは、本件青色取消処分の理由として「法人税法一二七条一項三号に掲げる事由に該当」としか記載されていなかったことが、最高裁判所昭和四九年四月二五日判決(民集二八巻三号四〇五頁)の趣旨に反するものであるとの考慮に基づくものであって、帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載したという実体的な処分要件が存在しなかったからというのではないことが認められ、右認定を覆すに足る証拠は存しない。」

二  原判決一〇枚目裏八行目の「提出することになって」を「提出することによってすることになって」と、同一〇行目の「欠損事業年度には、」を「欠損事業年度(昭和四一年四月期)において」と、同一一枚目表九ないし一〇行目の「原告の白色申告書による確定申告による確定申告により、」を「申告の方法を規制する青色申告の承認の取消しとは手続上別個に、控訴人の白色申告書による確定申告により、」と、同一一ないし一二行目の「申告方法を規制する」を「右」と各改める。

三  原判決一二枚目表一行目の「法人税法五七条二項によれば、」を「昭和四三年法律二二号による改正前の法人税法五七条二項によれば、昭和四三年四月一日前に開始した事業年度につき」と改め、同三行目冒頭の「書」の次に「である確定申告書」を、同じく「連続して」の次に「青色申告書である」を、同七行目の「欠損事業年度」の次に「(昭和四一年四月期)以降分」を、同じく「白色申告」及び「青色申告」の次にいずれも「書」を各加え、同一二行目の「課税処分」を「法人税額」と、同裏一行目末尾の「原告の異議」から三行目冒頭の「あるから、」までを「これが不服申立てなく確定したことによって確定しているのであって、」と、同六行目の「法人税」を「法人税法」と、同九行目の「昭和四一年四月期に発生した欠損金」を「本件欠損金」と、同一三枚目表六行目の「対象とするものであり、」を「対象とするものであるが、」と、同九行目の「解しうるから、」から同一〇行目末までを「解することができ、納税者が青色申告の承認を受けているか否かによって課税額の計算に違いが生じるのであるから、青色申告承認の取消処分が取消された場合にも、それに基づき更正の請求ができると解するのが相当である(最高裁判所昭和五七年二月二三日判決・民集三六巻二号二一五頁参照)。」と、同一一行目の「しかしながら、」を「もっとも、」と、同裏一行目の「欠損金の繰戻しや繰越しの手続」を「欠損金の繰越しの手続」と、同二行目の「青色申告以外の」を「提出した青色申告書が白色」と各改める。

四  原判決一三枚目裏一〇行目(冒頭の数字「四」を含む。)から同一四枚目裏末行まで全部を次のとおり改める。

「現に、原審における証人吉村文和の証言及び弁論の全趣旨によれば、長野税務署長は、本件青色取消処分を前示のとおり取消すとともに、本件青色取消処分に伴ってした更正処分の取消訴訟が提起されていた昭和三六年四月期から昭和三九年四月期までの四事業年度について右更正処分を取消し、右更正にかかる税額を控訴人に返還したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

従って、昭和四二年四月期についても、控訴人が、本件欠損金の繰越計算をした青色申告書を提出し、これに対して白色申告としてなされる更正処分に対して不服申立手続を経て取消訴訟を(本件青色取消処分の取消訴訟とともに)提起していれば、本件青色取消処分の取消しに際し、長野税務署長は右更正処分も取消したものと思われる(現実には、控訴人は本件欠損金の繰越計算をした青色申告書ではなく、白色申告書を提出したものであり、これに対する更正処分の確定によって同期の法人税額が確定したことは前示のとおりである。)。」

五  原判決一五枚目表一行目(冒頭の数字「七」を含む。)から同三行目の「考えるのであるが、」までを次のとおり改める。

「四 青色申告承認の取消処分があり、後にその取消処分が取消された本件のような場合につき、他に納税者の救済手段の存することは右三説示のとおりであるが、青色申告承認取消処分の取消訴訟を提起するとともに、右青色申告承認取消処分後の毎事業年度につき、当然更正処分がなされることを予期しながら青色申告書による確定申告をし、これに対して白色申告としてなされる更正処分に対する不服申立て、取消訴訟の提起という手続をとることは、納税者にとって相当の負担となるものであるから、右更正処分に対する不服申立て,取消訴訟の提起をしていなかった場合、更に、本件のように青色申告承認が取消されている以上、右取消処分に対する不服申立てないし抗告訴訟によってその取消しがなされるまでは事実上やむをえないところとして納税者が白色申告書による確定申告をしていたものと推認される場合にも、第二次的な救済手段として、国税通則法二三条二項による更正の請求ができると解するのが相当である。しかし、」

六  原判決一五枚目表四行目の「甲第四号証」を「甲第四、第七号証」と、同じく「本件につき」を「昭和四二年四月期につき、本件青色取消処分が取消されたことに基づき、欠損金の繰越控除を求めて」と、同一二行目冒頭の「八」を「五」と各改め、同一六枚目表四行目の読点「、」を削り、同裏四ないし五行目の「帳簿等の記載に隠ぺいの事実がないという実質的な処分要件の不存在」を「帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載したという実体的な処分要件が存在しなかったという瑕疵」と、同八行目の「言えないのであり、」から同一七枚目表五行目までを「言えず、本件全証拠によるも、右処分要件が存在しなかったこと、従って、課税庁が処分要件を誤認した瑕疵が存在することは認められない。」と各改め、同一八枚目表六行目の「事由」の次に「(処分理由)」を加え、同一〇行目の「本件青色取消処分が」の次の読点「、」及び同裏二行目(冒頭の数字「四」を含む。)から一〇行目まで全部を削り、同一一行目冒頭の数字「五」を「四」と、同一九枚目表五行目冒頭の数字「六」を「五」と各改め、同七行目の「どうかについては、」の次に「関係法令上必らずしも一義的に明白とはいい難く、」を加え、同一二行目冒頭の数字「七」を「六」と、同じく「以上いずれにしても、」を「以上によれば、」と各改める。

七  (当審における控訴人の補充的主張(一)について)

長野税務署長が、控訴人の昭和三六年四月期から昭和三九年四月期までの四事業年度については、本件青色取消処分の取消しとともに、本件青色取消処分に伴ってした更正処分を職権で取消し、右更正にかかる税額を返還しながら、本件欠損金(昭和四一年四月期に発生した欠損金)の繰戻し及び繰越しに基づく還付請求に応じないことは控訴人主張のとおりである(前判示のとおり。)が、前示のとおり、昭和三六年四月期から昭和三九年四月期までの四事業年度については、本件青色取消処分に伴ってなされた更正処分の取消訴訟が提起されており、従って、右各事業年度の法人税関係はいまだ確定していなかったのに対し、昭和四一年四月期及び昭和四二年四月期の法人税関係は既に確定していたのであるから、前提たる事情を異にし、格別矛盾する処理とはいえない。

八  (当審における控訴人の補充的主張(二)について)

長野税務署長が当初から控訴人主張の意図、目的を有し、単にこれを貫徹するために本件青色取消処分を行ったとの事実は、本件全証拠によるも認められないから、右事実を前提とする主張は理由がない。

よって、控訴人の本訴各請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横山長 裁判官 野崎幸雄 裁判官 水野武)

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